言の葉通信

2021-08-31 16:14:00

猫を抱いて象と泳ぐ

 チェスをしたことがないけれど、自分もチェスの静かな海に身を投じてみたい… そう思ってしまう一冊。

 外国作品の翻訳かなと思ってしまう雰囲気の文体だけど、間違いなく小川洋子さんのオリジナル。そしてその文体のおかげで、ちょっと一歩引いたところから主人公リトル・アリョーヒンのひかえめな生き方を静かに読者は見つめることができる。

 アリョーヒンの人生は、本人が思っているよりもドラマチック。普通の人には決して経験できないことに次々遭遇しているのに、当の本人はヒョロ~ンと自分なりに納得してすり抜けていくような感じがある。

 アリョーヒンの人生で出会った人々も素敵だ。みんな魅力的で、アリョーヒンを理解して静かに見守ってくれる人々だった。その人々の中で、きっと多くの読者は、肩に鳩を載せた「ミイラ」を気に入るかもしれないが、私個人は「総婦長」が一番のお気に入りだ。太った体の総婦長がそれ以上大きくならないように、アリョーヒンは気遣って、総婦長の夜食をいつも少し処分する。アリョーヒンにとって大きな体は、命を削ることで、悲劇で、恐怖の対象だったから。そして総婦長もまた、アリョーヒンを理解し、アリョーヒンが写った写真を大事に引き出しにしまっておく人だったから。さらには、アリョーヒンの最期を大事に包み込んだ人だったから。

 自分が心から求める場所で、心から安心できる場所で過ごし続けたアリョーヒン。人には皆、その人が心から求める場所があるはずだ。けれど一生涯のうちに、自分が心から求める場所を見つけられる人はいったいどれくらいいるのだろう。

 

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2021-08-18 23:35:00

六月の雪

 台湾の情景や熱が伝わってくる一冊。

 このコロナ禍の、自由を奪われた日常から抜け出して、非日常を味わうことができた「旅」。実際に行くことはできなくても、本を読むことでその地を巡り、楽しみ、人々と触れ合えた気分になれるのが「本の魅力」でもある。久しぶりに、脳内旅行を満喫できた「六月の雪」であった。

 そして、乃南アサさんって、こんな作品も書くんだ…と新たな魅力が発見できた一冊でもある。

 

 乃南作品といえば、ホラーミステリー、社会派小説、心理サスペンスが主流だと思っていた。一人の女性のゆっくりと、しかも確実に壊れていく姿を背筋が凍るような描写でゾクゾクさせた『幸福な朝食』。女性刑事と、使命を果たすために目的に近づいていくオオカミ犬の孤独な闘いを描いた『凍える牙』。

 『六月の雪』は、私が今まで読んできた乃南作品とは全く違う雰囲気を持ちながらも、巧みな心理描写は健在であった。

 

 主人公は、声優になる夢を諦めた三十二歳の未來。入院した祖母を元気づけようと、祖母の生まれ故郷である古都・台南へ旅に出ることを決意する。祖母の記憶を頼りに日本統治時代の五十年を探っていくが、それを支えるのが現地で出会った若い世代の台湾の人々。そして、思い出の地をめぐる七日間は未來と台湾の友人たちの人生に大きな変化をもたらすことになる……。

 

 乃南さんが台湾に大きな関心を寄せるようになったのは、2011年3月11日の東日本大震災。各国から義援金が集まるなか、台湾の200億円という金額に驚いたという。国交がないのに、なぜだろう。そして思い返すと、日本と台湾の歴史を学校で学んでこなかった。自分にできることは何だろうと考えた乃南さんは、仲間と社団法人を立ち上げ、作家である自分は日本と台湾についての文章を書くことで、台湾の人たちにお礼をしたいと考える。その後、乃南さんは台湾に通うようになり、行き始めた2013年から現在まで、約6年間で40数回も訪台。

 そうして書き上げられた『六月の雪』は、日本と台湾の歴史を深くえぐり出す一冊となった。日本統治時代の台湾の暮らし。日本の植民地だった50年間のあとの戒厳令の敷かれた38年の台湾。波乱に満ちた歴史に翻弄された台湾の人々の現実。

 台湾には「日本」が残っている。

 

 今年、新型コロナワクチンが日本から台湾に提供された。

 

 日本統治下にあった台湾なのに、なぜ…? そう思ったなら、ぜひ読んでほしい一冊である。学校では教えてくれない、日本と台湾の繋がりや歴史を知ることができる。

 

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2021-08-16 00:06:00

分からない言葉は「辞典」で調べる

 分からない言葉に出合ったら、その言葉を国語辞典で引いて意味を調べる。これが国語力を育てる第一歩であり、そして全ての勉強において基本中の基本です。

 文章を読むとき、書かれている言葉の意味が分からなければその文章の内容は分かりません。また書かれている言葉の意味をまちがって解釈していたらその文章の意味をまちがってとらえてしまいます。

 

 最近、国語辞典を引く労を惜しむお子様が結構多いように感じます。

 子どもが勉強をしていて、または生活していて分からない言葉に出合ったときには、辞書を引いて調べる習慣を身につけさせましょう。最初は、「めんどくさいな」と思っていても、辞書を引いていくうちに、だんだんと「分からない言葉の意味が分かることのおもしろさ」に気付いていくと思います。

 ただし、電子辞書やスマホ等ではなく、あの分厚い辞典で。

 電子機器を使えば、はやく調べることはできますが、調べたい言葉の意味しか知ることができません。けれど「辞典」なら、調べたい言葉以外の言葉の意味が、前後に、開いたページの中にたくさん書かれています。それらが自然に視界に入ってくるので、自然と他の言葉の意味も読むことになるでしょう。そうすることで、辞典を使うたびに語彙を広げていくことにもなります。

 ですから、一家に一冊、広辞苑を…とまでは言いませんが、分厚い辞典を常備してください。辞典にも、小学生用や、義務教育で習う語句のみを掲載するものなど、種類がさまざまです。場合によっては、調べたい言葉が載っていないということにもなりかねません。ぜひ、扱っている語句が多いもの、学年問わず使い続けられるもの、大人になっても使える辞典を選んでほしいと思います。

2021-08-13 14:54:00

読書で『読解力』を身につけよう

 読解力は、国語の問題を解くための基礎となる力です。しかし、読解力は国語の問題をいくら解いてもなかなか身につきません。

 基本的に、国語の問題は読解力を伸ばすためのものではなく、読解力があるかどうかを確認するためのものです。確かに国語の問題をたくさん解けば、問題を解く練習にはなりますが、読解力を身につけるまでにはなりません。

 

 それでは読解力を身につけるためにはどうすればよいのか?

 それは、自分が「読みたい」「理解したい」と思う内容の本を、ひたすら読むことです。

 文章で書かれたもの、つまりマンガ以外で何か自分に興味のある本を読んでみてください。車が好きなら車の本、ハリーポッターが好きならハリーポッター、ライトノベルが好きなライトノベル、歴史が好きなら歴史小説といったものを読めばいいのです。もし、読書が苦手で抵抗感がある場合は、字が大きめの本を買って読むとよいでしょう。

 好きな内容の本を読むことで好奇心が育ち、また次の本が読みたくなります。そしてその本を読むとまた好奇心が育ちまた本が読みたくなります。自分の好奇心にしたがってどんどん好きな本を読んでいけばよいのです。

 自分が心の底から「読みたい」「理解したい」と思う本を読むことによって、読解力は自然と身についてきます。

 

 国語の問題が、自分がおもしろいと思える内容であればいいのですが、基本的に自分の好きなテーマでないことが多いです。そして、そのように自分が「読みたい」「理解したい」と思えない文章をいくら読んでもなかなか読解力は身につきません。

 「読解力」を身につけたいなら、国語の問題をたくさん解く前に、自分が「読みたい」「理解したい」と心の底から思える本をたくさん読んでみましょう。

 読書は勉強ではないと思われるかもしれませんが、読書は全教科全てに必要な読解力が自然に身につく重要な勉強なのです。

 

 全ての勉強において共通すること。

 それは文章を読んで理解するということです。

 例外はありません。

 それはつまり、文章を理解できなければ全ての勉強は分からないということです。

 

 私たちの身の回りには、文章が溢れています。新聞や雑誌、商品を買えば取扱説明書が付いてきますし、何かの契約をすることもあります。読解力が身についていなければ、もしかしたら… だまされたり、大きな失敗をすることだってあるかもしれません。いくらネット社会といえど、結局は、なんらかの文章を読むことは必須です。

 極端な話、「読解力」を身につけることは「幸せ」にも繋がるのではないでしょうか。

2021-08-06 14:56:00

静かに学ぶ姿は素敵です

 最近、「言の葉の森」が塾だけじゃない、フリースペースで自由に勉強ができる場所だと少しずつ認知されてきたようで… 夏休みの宿題や課題に取り組むために小学生・中学生・大学生が訪れてくれる。(高校生はまだ一人も来ていない…と思う。)

 家にいるとついついスマホを手にし、ゲームを始めてしまって集中できない。しかも暑いし。そうして、わざわざ足を運んでくれるらしいのだ。

 ひたむきに勉強に取り組む姿、とっても素敵だなあと思ってしまう。15時あたりから塾生がやってきて授業が始まるのだが、当然コミュニケーションをとりながら進めていくので、うるさくないかな…と気になってしまう。だから、ついつい声のボリュームを絞ってしまう。

 とても閑静な住宅街の一角で、お互いに気を遣いながら、自分の勉強に取り組んでいく。こんな静かな時間が流れる空間が、私は大好きです。

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