言の葉通信

2022-02-22 16:27:00

私が読書を勧める理由(2) 想像する力を養うため

 物語の持つ力の一つは「自分じゃない誰かの人生」を追体験できることだ。だから当然、小説好きには他人の考えを想像できる人が多い。

                      (早見和真/著「店長がバカすぎて」より引用)

 

 現実の世界には「ない」ものを想像する力、それを育めるのが読書だと思う。小学校低学年くらいまでに、まずはおとぎ話や神話、世界各地の昔話をたっぷりと読み、中・高学年になってきたら、徐々に簡単な文学作品に。低学年でどっぷりと読書の楽しみに浸ったなら、自然と、自分で様々な本を取るようになるはず。つまり、「想像力」を育むためには低学年が勝負であるとも言える。

 物語は、「言葉によってイメージできる力」を育ててくれる。桃から人が産まれるなんて、現実世界ではあり得ない。おとぎの国はどこにも存在しないし、わたしたちが王子様やお姫様になることも、現実世界ではほぼ叶わない。ところが、物語では現実にはあり得ないことが何でも起こり得るし、また言葉の力によってさまざまな疑似体験も行えるのだ。これからの世の中はますます便利な物で溢れ、頭を使わなくても良くなっていくだろう。きっと大変なことはAIにお任せ!! だが、はたしてそれで良いのか?

 身の回りにある便利な物は、結局は、人の想像力がカタチになったものだ。こんなのがあったらいいな…を、人の想像力から年月をかけて作り上げた物だ。つまり、新しい物を生み出す根源は、「想像力」。どんな時代になろうとも、これは手放してはならないものではないのか。

 

 文学作品は、自分の知らない世界を見せてくれる。

 文学作品と言えば、基本的に明治時代から戦後までの近現代に書かれた作品が多いのだが、あの頃は、いつでも戦争があった。明治維新から始まって、十年ごとに日本中が戦争に巻き込まれていた時代だった。家族の誰かが戦争に行って人を殺し殺され…つまり、死をリアルに捉えることができた時代だった。同様に、現代はコロナ禍。多少平和ボケしていた日本人に、命が危険にさらされる恐怖を味わわせた。

 かつての文豪たちは、病や死が身近だった。そんな中で多くの作品を書き残した。一方、今の子どもたちはそういう時代は知らないし、生きたことがない。だから、「活字を通して」自分と違う価値観、自分と違う世界をありありと思い浮かべる、という経験が必要だ。そうして、人の心を想像し思いやれる大人になってくれたなら、学力を高める以上に、嬉しいことである。