言の葉通信
2025-09-13 15:16:00
すべてのエピソードが愛おしい 「ゆかいな床井くん」
「おれ、大人になっても覚えていると思う。今日の、今の、この瞬間のこと。そういうふうに思うこと、ない? ときどき。特別な感じがするやつ」
そうそう、あるよ、あるある。私の場合は、大人になってから過ごした生徒たちの日々の中に、忘れられない特別な瞬間がある。
『ゆかいな床井くん』は、暦ちゃんとユーモアあふれる床井くん達6年2組の1年間が綴られている。大きな事件は起きないけれど、先生のネクタイ柄が毎日違っていたり、虫やパクチーの好き嫌いを討論したり、故障した自販機からオロナミンCがたくさん出てきたり、みずみずしい感覚で心が揺れながら成長する姿が眩しくなる。
「こ、このコッペパン、ちょいとに似てるんだ。食えない…」と、給食配膳をしながら、愛犬「ちょいと」の死に涙する床井くん。ぅ…愛おしすぎる。
暦ちゃんの自問自答する姿も、うんうん、わかるよ、みんなこんな風に考えてるんだよね、と誰もが思うだろう。ニックネームにまつわるエピソードも、女の子たちのちょっとした駆け引きも、等身大の女の子の日常だ。
どこの教室でも起こりうる日常が、とっても愛おしい。かつての私のクラスの子たちと重ねながら、心があたたかくしながら読み進めた。
著者・戸森しるこさんの作品に、もっと早く出会っていたかった。そうしたら、学級文庫に置いて、生徒たちに読んでもらえたのに。
高学年~中学生諸君に、絶対に読んでほしい一冊である。