言の葉通信

2021-06-18 17:39:00

夏と花火と私の死体

 夏になるとよく聞かれた。

「おすすめのホラー小説って何ですか?」

ここ数年、私は決まってこう答えていた。

「乙一の、夏と花火と私の死体… だね。」

 

 この作品は、1996年に発表された 乙一 のデビュー作である。しかも、執筆当時は何と16歳!!! 私はそのことを読後に知ったのだが、衝撃極まりなかった。なんとも恐ろしい作家が誕生したものだと驚嘆した。この衝撃がきっとずーっと心に残っていて、だからつい答えてしまうのだろう。「夏のホラー=夏と花火と私の死体」…これは私の中の方程式のようなものかもしれない。

 

 9歳の夏休み、少女は殺された。あまりに無邪気な殺人者によって、あっけなく――。こうして、ひとつの死体をめぐる、幼い兄妹の悪夢のような四日間の冒険が始まった。「冒険」… いや、そんな可愛いものじゃない。ハックルベリー・フィンと一緒にされては困る。

 この作品は、殺された「私」――すなわち、死体の一人称によって展開していく。日本の田舎の夏の風景が喚起するノスタルジーと、「私」の死体を探す大人vs隠す兄妹のコミカルなサスペンス劇とがうまく融合した本作。 「私」を殺してしまった幼い兄妹の兄がなかなかの切れ者で、スリルを楽しむ余裕すら持っているのが、また違う恐ろしさを感じさせる。まさに、死体隠しゲーム。この子が大人になったら……考えたくもない。小説でホントに良かった。

 

 怒濤のラストまで一気に読み進め、背筋をヒヤリとさせられるであろう一冊。ぜひ、寝苦しい夜のお供に――。

 

page001.png