言の葉通信

2021-06-18 17:31:00

サボテンの花

 私の一押し作家、宮部みゆき著「我らが隣人の犯罪」という短編集に収められている「サボテンの花」。これは超絶大好きな作品です。あまりに好きすぎて、いろんな人に紹介し、いろんな人に貸していたら、そのまま返ってこなくて… その度にまた購入して… たぶん、5回は買っています。

 平成元年発表の作品なので、すでに30年以上前の作品ですが… 古さは感じさせません。とってもハートフルなミステリーで、何度読んでもホロリとさせられます。

 さて、ストーリーは・・・

 

 権藤先生はこの3学期でとうとう校長になることができないまま、教師生活を終えるであろう、小学校の教頭先生だ。穏やかな性格で、教頭になっても授業を担当して子供と触れ合うのを一番の楽しみとしている。でも、その穏やかさのせいか、他の若い先生になめられがちだったりもする。

 また、6年1組の「わたしの夢」という授業の中で、「先生の夢はこの世にひとつしかない酒、そんなものがあるなら、飲んでみたい。」などと言って一部の教師や父母から「不謹慎な!」と、怒られてしまったりするお茶目な面ももっている。

 そんな権藤教頭が授業を受け持つ6年1組の子供達が、卒業式の前日にある「卒業研究発表会」で「サボテンの超能力について研究したい。」と、言い出した。当然教頭以外の周りの大人達は「そんなふざけたテーマなんて!」と大反対。しかし、子供達の自由にさせてやりたい権藤教頭は1人で、その反対の嵐をおさめようとする。

 が、裏腹に子供達は研究の内容は一切秘密で、「奇怪な行動をしていた」「内緒で集まって何事かしていた。」などの情報ばかり耳に入ってくる。そして、何も真実がわからないまま発表会当日がやってくるが……

 

 子ども達が権藤先生のために仕掛けたサプライズの顛末を描き出した作品です。

 私が初めて「サボテンの花」を読んだのは、教職生活をスタートさせる前でした。子どもって何て純粋なんだ!!と感動した一冊です。そうしていざ教職生活が始まると… もうてんやわんやの忙しさ。笑ったり怒ったり泣いたりの日々。そんな中、この「サボテンの花」のようなホロッとさせられるサプライズが現実に起こるたび、それまでの苦労など吹っ飛んでしまったものです…。

 

 純粋な心に触れたい貴方に、お薦めしたい作品です。

 

サボテンの花